・・・ビ・・・・トビ・・・

トビは耳元で声がするのに気づき、目を覚ました。

「トビ君。メリークリスマス」

見ると、白いモッサリとした髭に、赤い服を着たおじいさんだった。

「・・・サンタ?」

「ふふふ。そうだよ」

トビは目を見開く。サンタは続けて喋りだした。

「実は、君にプレゼントを届けるのを手伝ってほしいんだ」

「え。でも、外寒いし・・・」

「そのコートがあるだろう?」

サンタがベッドの隅に置かれた袋を指差した。

「あ…」

トビはコートを袋から出し、それを着てサンタと共にソリに乗った。

「それっ」

そう言って、サンタは手綱を引く。

トナカイ2頭につながれた大きなそりに、沢山のプレゼントが入った袋を積んで、サンタとトビまで乗せている。

見るからに重そうなのだが、トナカイが走りだすとソリは軽々と引っ張られ空へとあがっていく。

トビは驚いて下を見下ろしていた。



何軒かにプレゼントを配りソリの飛行にも慣れてきたとき、トビはサンタに尋ねた。

「このコートくれたの、あんたか?」

サンタは前を向いたまま答えた。

「ふふ。それはわたしではないよ。羽久利さん、といったかな?君たちの主人だ」

トビはああ、やっぱり。と思った。しかし、トビが本当に聞きたかったのはそれではなく・・・

「・・・あんたからは、くれないの?」

「わたしからはあげられないなぁ」

サンタはふふふっと笑った。

トビはうつむいてしまった。別に図々しくねだったわけじゃない。ただひとつ、聞きたかっただけ。

「やっぱり、いい子じゃないから?」

「そんなことない。君はいい子だよ?」

そのサンタの返事を、トビは信じられなかった。だっていい子なら、プレゼントをくれるはずだから。

黙り込んだトビに、サンタはゆっくりと話し出した。

「最近はね、私がプレゼントをあげれる子が少なくなってしまったんだよ。どうしてだと思う?」

トビは答えなかった。

「親がね、用意してしまうんだ。子どもの一番ほしい物を」

トビはずっとうつむいたまま。

「茶助君にも、あげられなかったよ。絵の具セットを、茶助君の一番欲しい物を、あの人が用意してしまったから」

「俺は、コートが欲しかったわけじゃない」

トビがポツリと呟く。

「知っているよ。君が一番欲しいもの。でも、君が欲しいのは"物"じゃないだろう?」

「え」

トビがサンタの顔を見る。

「わたしはね、その子が一番欲しい物しかあげられないんだ」

サンタはあいかわらず、前を向いている。

「君が欲しいのは、あの人ととの時間、だろう?」

トナカイの首についた鈴が、リンリンと鳴る。

「君はもっとあの人と遊びたいんじゃないのかい?でもあの人はいつも忙しそうで、

 帰ってきても疲れたような顔をしてるから、我慢していたんだろう?充分いい子じゃないか」

サンタが、トビの顔を見て笑いかけた。

「でもね、大人にも仕事があるように、子どもにも仕事があるんだ」

「仕事?」

「そう。子どもはね、遊ぶのが仕事なんだよ。そしてそれを相手するのも、大人の仕事だとわたしは思うんだ」

「じゃあ・・・」

少し考え込んでいるトビに、サンタが呼びかける。

「トビ、上を見てごらん」

トビが上を見上げると、鼻先に冷たいものが乗った。

「・・・雪?」

空から、真っ白いものが沢山落ちてくる。

「寒くはないかい?」

「・・・へーき。コートがあるから」

トビはコートに顔をうずめた。

「きっと、すごく探したんだろう。寒がりの君でも、外でも元気に遊べるように」

「あんたは、何でも知ってるんだな」

「ふふふ。さぁ、次の家が最後だ」

2人は最後の家にプレゼントを置いて、トビの家へと引き返す。

「雪、積もるかな」

トビが呟いた。

「最後に、2つだけ教えてあげよう。わたしからのクリスマスプレゼントだ」

トビはサンタの方を見た。

「羽久利さんは、北国の出身なんだそうだよ。雪の遊びもいっぱい知っているかもね。そしてもうひとつは・・・」

トビが聞き入る。

「羽久利さんの一番欲しいものは、君たち2人の笑顔なんだよ」

シンと静まり返った世界に、鈴の音が鳴り響く。

「プレゼントって・・・」

呟くように言ったその言葉に反応し、サンタはトビの方を見た。

「"物"しかやれねぇんじゃなかったのかよ」

トビが笑って言った。普通の、無邪気な子どものように笑って。

「ふふふ」

サンタも笑いかえす。



夜が明けようとしていた。



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