ツカサが入る"こころ"の中は、体を、頭を切り開いても見つけることは出来ない。

"こころ"の持ち主が成長するにつれ形作られ、持ち主も入れない、存在することすらわからない未知の世界。


 亜紗美のこころの中。。。


そこは、襲撃を受けたどこかの街みたいで、荒れ果てていた。

「・・・ひどいな」

ツカサは、その街を歩いていく。

全壊、あるいは半壊したいくつもの家。倒れた本棚、散乱した食器、割れた写真立て・・・。

ツカサは写真立てを拾い、写真を確認した。

「これは…」

他の家を見て周り、写真を全て確認する。

そして、隣の家は全壊しているのに、何故か無傷で建っている1つの小屋。

その小屋に入ろうとしたとき・・・

「だれ?」

いつの間にか後ろに立っていた、麻美にそっくりの少女が問いかけてきた。

「お前が主か。この街、全部お前が壊したのか?」

「そうよ」

「何故?」

「だって、おもしろいじゃない。何かを壊すのって…」

「おもしろい?本当に?」

「ええ、おもしろいわ」

少女の顔は、笑えてはいなかった。

「・・・哀しかったんじゃないのか?哀しかったから、壊したんじゃないのか?」

「・・・何が言いたいの?」

「"こころ"は、ここは己の世界。ここには普通、自分自身に関することしかないはずだ。でも…」

ツカサは少女に写真を見せる。

「この家族写真、俺がここに来るまでに見てきた亜紗美の記憶にいた人達だ。これだけじゃない。

 俺が見て回った家の写真は全部、亜紗美の記憶の中にいた人達の家族写真だった。

 しかも、亜紗美とはまったく関わりのない…外でたまたますれ違っただけのようなあかの他人。幸せそうな普通の…」

「聞きたくない!!」

ツカサの話を遮ったその声は、叫び声のようにも聴こえた。

少女は今にも泣きそうだった。それでも、ツカサは続けた。無傷の小屋を指差す。

「この家、お前の家か?たまにだけど、わずかに物音がするぞ」

「! 開けないで!!」

ツカサは、小屋のドアを開けた。

中にいたのは、静かに眠っている3才くらいの子供。ツカサはしゃがみこみ、その子の頭をなでる。

「お前が孤独と哀しみなら、この子は愛と喜びってところか…。でも、あんま育ってないな。この子」

少女が、ついにポロポロと泣き出した。

「育たないの。私がどんなに一緒にいても、どんなに大事にしても、大きくならないの。私には、愛がないから…」

「亜紗美の中の親の記憶は、亜紗美の兄貴と話しているものばかりだった。出来のいい兄貴にかまうばかりで、

 親にもろくに愛されなかったんだな、亜紗美は」

ツカサは立ち上がり、少女のもとへ向かう。

「お前たち、名前は?」

「あの子は愛。私は・・・哀」

「2人とも"アイ"か。いい名前じゃん」

ツカサは、少女に優しく笑いかけた。

「十数年間、ずっと1人で寂しかったんだろう?でも、もう1人にはさせねぇから。少しずつかもしんないけど、

 外の奴らと一緒に愛を大きくしてみせっから。それまで、待ってろ」

「・・・うん」

哀は少しだけ笑っていた。

「可愛く笑えんじゃん」



 実世界。。。

麻奈が亜紗美と伸のほうへ近寄る。

「けっこう掛かるのね」

「こころに欠陥があればね」

―異常修理、悲哀安定、アフターケアの必要性あり。メンテナンス終了―

亜紗美の頬に触れていた伸の手を通って、ツカサが伸の頭に戻ってくる。

「あ、帰ってきた」

「え?」

と同時に、亜紗美の意識が戻る。

「あっ」

「あ…」

麻奈と亜紗美の目が合った。麻奈は、少し逃げたくなった。

「大丈夫だよ。ツカサが問題を解決したから、もういじめないと思うよ」

「ホントに?」

亜紗美が、ゆっくりと口を開く。

「あ、あの…今まで、ホントごめん。・・・同じクラスになったとき麻奈が最初に話かけてくれて、嬉しかったの。

 でも、麻奈は他の人とも仲良くなっていって。私、学校でも独りになっちゃうような気がして、それで、どうしたら

 いいかわかんなくなちゃって…ちょっと突き放したら皆私に寄ってきたから。ダメって、わかってたんだけど・・・」

「やれやれ、他の奴等もメンテナンスしたほうがよさそうだな」

伸がツカサに変わっていた。

麻奈がずっと黙っている。ツカサは麻奈のほうを見てフゥと息をついた。

「許してやれば?」

「・・・許さない。私だって、今までずっと寂しかったんだから」

麻奈の声は、少し震えているようだった。

「だから…それを忘れさせるくらいずっと、ずっと仲良くしてくれなきゃ許さないから!」

麻奈の目には涙が溜まっていた。それを見て、亜紗美がクスリと笑って応える。

「うん!」



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