「うわぁ、やっぱり新茶はいい香りがしますねw」

ダイニングの、キッチンに1番近い席に座っている茶助がウキウキした様子でお茶を淹れる。

その左隣に座る桔梗が、持ってきたお茶菓子を出しながら言った。

「この間届いた中で1番いいお茶を持ってきたのよ」

「新茶だけでいくつもあるんですかぁ!?」

いつになく茶助のテンションがあがる。

「ええ」

楽しそうに話す茶助に、それならと桔梗は提案した。

「今度ウチでお茶会があるの。よかったら、茶助も参加する?」

「ええっ!いいんですかぁ!?」

茶助の目がいっそう輝いた。

その提案に、アヤメもすごく賛成する。が、その狙いはトビであった。

「そうね♪ ねぇ、せっかくだからトビもおいでよ」

「嫌だよ、あんなカッタイとこ」

「お茶会には出なくても。ほら、茶助の付き添いとしてウチに遊びに来るだけでもいいじゃない?」

「お前んち面倒くせぇもん。礼儀とかなんとかって」

アヤメとトビの会話を聞いて、桔梗が昔話を切り出した。

「あら、昔は呼んでもいないのによく来てたじゃない?」

「昔って、いつの話してんだよ。あん時は飯食いに入ってたの」

たまに2人はこんな話をするが、アヤメがまだトビと出会ってない頃の話で、

姉の方がトビのことをよく知っているということを見せ付けられている気がしてしまうので、

アヤメはあまりいい気がしないのであった。

アヤメは話を元に戻した。

「ご飯ならご馳走するよ?ウチのシェフ和でも洋でも言えばなんでも作ってくれるし」

「そういう飯じゃねぇよ」

トビはグッとお茶を飲む。

「じゃあどういう――――」

  ピンポーン

アヤメの言葉を遮るように、玄関のブザーが鳴った。

「あ、はいは〜い」

茶助が玄関へ駆けていく。

ドアを開けると、知らない男の人が立っていた。その男は兵士かなにかのようで、

長い藍色のジャケットの下から、剣の鞘が少し見えていた。

「どちら様でしょうか?」

「あの、仕事の依頼をしに来たのですが。あなたがトビさんでしょうか?」

「いえ。今呼んできますね」

玄関から少し入ったところから、茶助がトビを呼んだ。

「トビ兄、お仕事だって」

「ん〜?」

トビが席を立ち、玄関へ向かう。

トビと代わって席に戻ってきた茶助に、アヤメが問いかける。

「トビって何の仕事してんの?」

「なんでもやってるよ?」

「なんでも?」

「うん。依頼された仕事はなんでも。戦う仕事が多いみたいだけど」

あまりにもアバウトな仕事内容に、アヤメはちょっと不安になった。そこで、少しだけ玄関を覗いてみる。

「ちょっとアヤメ?」

姉の心配をよそに、玄関へと向かった。

「少しだけだから」

それは、不安よりも好奇心の方が大きかっただろう。

アヤメは恐る恐る玄関先を見る。

「・・・あれ?セリエさん?」

玄関先にいた依頼主は、なんとアヤメには見覚えのある人だった。

「え、相馬さん?」

依頼主にも、心当たりがあるようだった。

2匹の顔を見てトビが言う。

「なんだ。知り合いか?」

「ええ、まぁ。セリエさんが仕えてる屋敷のお花をよくウチが活けてるの」

「お前も活けんの?」

「あたしじゃなくて。お姉ちゃんとか、お父さまとか。あ、今お姉ちゃんいるし中で話したら?

 立ち話もなんだし」

「じゃあ、あがって」

トビがセリエに言う。

「あ、では。おじゃまします」

3匹は中に入った。

「茶助ぇ、お客ぅ」

「は〜い」

トビに言われて、茶助が手際よくお茶を用意する。

「あら、お客様ってセリエさんだったの?」

仕事の話をするのに、自分は邪魔だろうと席を立とうとした桔梗だったが、その必要はなかったようだ。

「お前ら知り合いなんだろ?あ、席ここどおぞ」

さっきまで自分が座っていた席をセリエに譲る。

桔梗が話を続ける。

「ええ、セリエさんはロイド家のお嬢様、レイラさんの使用人兼ボディガードよ。

 今度レイラさんのお誕生日パーティがあって、会場のお花を私が任されてるの。

 でも、どうしてセリエさんがトビに?」

「はい、実はそのパーティについて嫌な情報が入ってきまして・・・」

一同は聞き入る。

「蜘蛛が、そのパーティを狙って動くらしいんです」

その言葉に反応したのは、トビと桔梗だった。

「蜘蛛が!?」




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