次の日

「行ってきます」

「麻奈!学校へ行く気になったの!?」

「うん。まぁね。明日は修了式だから、1年生最後の授業くらい受けとこうかと思って」

「よかったわ。お母さん、麻奈がもう学校へ行かないかもって思っちゃったけど、

 麻奈はそんな弱い子じゃないもんね。頑張っていってらっしゃい」

「うん。・・・じゃあね」


生徒が来るにはまだ早い時間、麻奈は学校に着いた。

しかし、学校に入って向かった先は、教室ではなかった。


 屋上。


バレないように柵より少しさがった位置から、登校してくる生徒を見下ろしていた。

生徒たちの中には、いじめの中心人物、亜紗美の姿もあった。

「まっててね、亜紗美。最高の誕生日にしてあげるから…」


一校時目も、二校時目も、麻奈はずっと屋上に立って街を見ていた。

麻奈が待つのは、昼休み。

亜紗美が、彼氏と弁当を食べに屋上へやってくる時間。

 そして、三校時目が終わった。

「…あと、1時間」




その時、後ろのドアが開く音がした。




麻奈は驚いて振り返る。

生徒ならともかく、教師なら面倒なことになるからだ。


しかし、その人は教師でも、生徒でもなかった。


「・・・うん、写真と同じ顔だし、間違いないと思うけど。・・・でも違ってたらメンドイよ。・・・うん」

1人でぶつぶつ、まるで誰かとしゃべっているような独り言。明らかに怪しい。

そんな男が、麻奈のほうへ歩いてくる。麻奈は柵をつかんだ。

「ち、近づかないで!」

「君、青井麻奈?」

「そうよ!いじめられっ子の引きこもりよ!!」

「それで、自殺するの?」

「何よあんた!説得でもしに来たの?それとも、まだいじめたいわけ?」

「どっちかって言うと説得、に近いかな」

「無理よ。もう、耐えられないの…。死ぬしかないのよ!!」

「…ベタな言葉だね。でも、僕らは君にじゃなくて、君の心に用がある」

「はぁ!?意味わかんない!結局同じじゃない!」

男は無視して、麻奈に近づく。

「そ、それ以上近づくなら、柵飛び越えるからね!!」

「柵を登りきる前に、僕は君を捕まえればいい」

「ちょっと!!近づかないでって・・・きゃっ!」

逃げようとした麻奈の腕を、男は強くつかんだ。

「離して!!」

男は、激しく反発する麻奈の肩をつかみ、麻奈の唇に、キスを。

麻奈は頭が真っ白になった。



戻る     次へ


   羽久利の書庫へ戻る