「あ〜!またこんなところでサボッてる!ちょっと、夜月?」

「・・・ん〜?・・・なんだ、デリーか。あれ?もう授業終わったの?」

ラーク・ハルト・サンフェース博士の助手(バイト)ディリーの声で、夜月は目を覚ました。

「終わったどころか、とっくに次の授業始まってるわよ!それに、デリーじゃなくてディリーだから」

「あーはいはい。…そぉか、次の授業始まっちゃったか。じゃあその次の授業が始まるまで寝よう」

「夜月!!」

「・・・・・・…」

夜月の安定した寝息が聞こえ、ディリーは嘆息した。



 英国、ロンドンにあるUniversity College Of United Kingdom、通称UCUKは、イギリスでも

5本の指に入る超有名大学だ。特に科学分野で大きな成果をあげ、科学者の聖地ともいえる

ところである。

 そして、そんな大学になんと13歳という若さで博士と呼ばれている人がいる。ラーク・ハルト・・・

「サンフェース博士!!夜月がまた授業サボッて庭で寝てます!しかも今日はついていけると認められた

 生徒だけが参加できる特別授業だったのに…。彼、単位足りなくて留年してるんでしょ?

 庭に昼寝用ベンチ持参してるし、いっそのこと退学にしちゃったらどうです?」

「ハハハッ。彼変わってるよねぇ。今日の授業サボッたのも彼だけだしねぇ。何度撤去されてもどっかから

 ベンチ持ってきちゃうし…」

 ラークはにっこりと笑い、研究室の奥にある窓に歩み寄り、明るい黄色のカーテンを少し開き、

外を覗いた。ラークの研究室は学部の端っこにあり(ラークは天才的頭脳の持ち主だが、

日常生活における常識から少々欠落した部分があり、しょっちゅう実験中に爆発をおこすため、

被害が少なくなるように端っこに研究室があった)、ラークは容易にベンチに横たわる夜月を目視できた。

「でも彼、留年してもニッポンに帰らなくて済むぐらい、頭はいいんだよねぇ。

特別授業も許可されてるし、みてみて、これ…彼のレポート」

「・・・火山の噴火活動による内部の動きとエネルギー変化?うわっ、計算ばっかり。

 あんまりレポートっぽくないですね。内容も難しくて私には…」

「それね、ある火山の周期を調べたものなんだ。他の科学者は不定期だって言い張ってたんだけど、

 噴火のときの映像と資料を見た後勝手に現地へ向かったと思ったら、その場で計算始めちゃってサ。

 まぁ、それで30年18年、30年18年っていうちょっと変わった周期を発見したんだ。ほら、数ヶ月前

 噴火のニュースがあったでしょ?あの火山だよ。あの噴火の前に発見できたから被害が少なかったんだ」

「…へえ…あいつが、ですか…だったらそれこそもうちょっと真剣になってくれればもっと…」

「そうだねぇ…でも、彼が真面目になれないのには理由があるような気もしたりしてね?」

「博士?」

 ディリーは、笑顔のラークをみた。それは苦笑にも見える。

「さてと。ディリー、悪いけど、ロスを呼んできてくれないかな。今日の夜の予定について、

ちょっと話がしたいから」

「…わかりました」

 ディリーが出て行ったのを確認すると、ラークは窓の手前にある本が山積みのデスクの、一番上に

おいてある本を取った。ラークはそのまだ新しい印刷の本のタイトルを読む。

「…火山の噴火活動による内部の動きとエネルギー変化・・・・・・ラッセル・ハワード作…」

 ラークはため息をついた。肩までのばした金髪が、白衣の上で風に揺れる。

「実力と現実って、意外と落差があったりしてね…?」




 ロスを呼んだ後、ディリーは再び夜月のベンチに行ってみた。

夜月はペットボトル片手に、ベンチに座ってジッと何かを見ていた。

「結局今日の授業全部サボってるじゃない。・・・何やってるの?」

「ん〜?…別に。ってか、何の用?また説教?」

「違うわよ。ただ、何で真面目に授業受けないのかなぁって」

「やっぱ説教じゃん」

「だから違うって!・・・見たわよ。あなたの火山の噴火について?のレポート」

「・・・あぁ、あれね」

「あれのおかげで沢山の人が助かったんでしょ?実力があるんだからもっと色々やって…

 そうすれば、もっと沢山の人の役に立つわけだし。教授とか、そういう仕事に就けばお金だって・・・」

「俺はっ、・・・いいんだよ、別に」

夜月の言葉は、ディリーの言葉を遮った。

「それに、俺火山とかあんま好きじゃねぇし。元々生物やるためにあの学科入ったんだよ」

「・・・ふーん」

 わずかだが取り乱した夜月を、ディリーは初めて見た。


 
 その夜。

「ラーク、もうそろそろ教授のい、えに・・・・・・」

ロスヴィーニュ・ルーズヴェルトは生まれつき体内の色素が足りない病気を抱えている、

若い青年である。透き通るような白い肌と、白というより青に近い髪、そして網膜の色がうつるために

赤みがかった瞳を持つ。容貌はすっきりとしていて、少しつり目。女性にとても惹かれそうな、

いわゆる美形である。

 ロスヴィーニュはその体質故病弱であるが、ラーク本人に見いだされラークのボディガード兼

秘書をしている。ディリーに呼び出され、ラークに会いに行ったところ、「夜出かけるから」といわれたのだ。

 夜になったのでラークを呼びに来たのだが…

「ああ、ロス、呼びに来てくれてありがとう。でもちょっとまってて、この実験が終わってから…」

「・・・・・・ラーク」

「ん?」

 ラークの髪が、アルコールランプの炎にすかされる。そしてその距離は、だんだんと縮まり…

ロスヴィーニュ、通称ロスはラークに走り寄る。

「・・・・・・実験するときは髪結べっていってるだろうが!!!」

ロスはラークの髪をつかみ、アルコールランプから遠ざける。

が、時既に遅し。

ロスが急いでラークの髪に燃え移った火を消すも、髪は少し焦げてしまった。

そしてラークの金髪が、その焦げた髪を目立たせた。

 「はぁ・・・」

ロスの呆れたため息。

「ご、ごめんね。次からちゃんと気をつけるから」

「あ゛?お前、この前もそういってたよな?」

「ん?そうだっけ?」

 ロスは更に顔を険しくさせる。そして彼の、きっちりときこんだスーツの上着のポケットから、

ハサミと黒の髪ゴム、そして櫛をとりだす。

「このやっろ、なんで、俺が、丁寧に、お前の髪の世話を、してやんなきゃいけないんだ!!」

「いたた、ロスひっぱらな、いたいっ!!」

ロスはラークの絡んだ髪をきれいにまとめ上げた。

「さあ!好きなだけ実験すればいい」

「…あの、もう出かけれるんだけど」

「お前はっ・・・さっさと行くぞ!」

2人は部屋をあとにした。


次へ